「天使の詩」シリーズは、日本テレネットが制作した“リリカルRPG”。人間と天使の恋と宿命を軸に、神話的世界観やドラマ性豊かな物語を展開します。第1作はケルト神話を背景に魔王との戦いを描き、第2作では“堕天使の選択”を通じて人間の可能性を問う物語が紡がれます。第3作はシステム刷新と群像劇的展開で締めくくり、恋愛・運命・希望をテーマにシリーズを完結させました。
シリーズの概要

「天使の詩」シリーズは、日本テレネットが手がけた“リリカルRPG”です。見下ろし視点の移動とランダムエンカウントのターン制バトル、昼夜で変化する街の様子を備え、要所ではフルボイスのビジュアルシーンが物語を彩ります(第3作除く)。人間の主人公と天使のヒロインの恋と宿命を核に、1作目はケルト神話を下地にした悲恋と封印の物語、2作目は100年後・別次元を舞台に“堕天使の選択”で人間の価値を問う展開、3作目は戦闘や成長を刷新し、伝説となった過去の出来事を踏まえて群像的に完結します。
シリーズの魅力
ケルト神話をベースにした独特の世界観

「天使の詩シリーズ」は、ケルト神話をモチーフにした独自のファンタジー世界を舞台にしています。ケルト神話は、その神秘性や多様な神々、英雄たちの物語で知られ、ファンタジー作品に豊かな背景を提供してくれます。このシリーズは、その神話を巧みに取り入れ、プレイヤーを異世界へと誘います。魔物や魔法、神々の存在が当たり前のように登場し、プレイヤーはその中で冒険を繰り広げます。この神話的要素が、物語に深みと広がりを与え、プレイヤーを魅了する大きな要素となっています。
深い人間ドラマとロマンチックなストーリー

シリーズの中心には、主人公とヒロインの恋愛があり、冒険の中で育まれる愛や絆が物語を彩ります。各作品で描かれるキャラクターたちの感情や葛藤は非常に丁寧に描写されており、プレイヤーは彼らの成長や変化を共に体験します。愛と冒険が交錯するドラマティックなストーリー展開が、シリーズ全体の大きな魅力です。
特に、「天使の詩」では、ケアルとクレアの恋愛が物語の中心にあり、彼らの愛が冒険の原動力となります。クレアを救うためのケアルの旅、そして二人の絆が試される試練が、プレイヤーに感動を与えます。また、「天使の詩II 堕天使の選択」や「天使の詩 白き翼の祈り」でも、主人公とヒロインの関係が重要なテーマとなり、物語に深みを加えています。
魅力的なキャラクターと声優陣

「天使の詩シリーズ」では、個性豊かなキャラクターが多数登場し、それぞれに深いバックストーリーが用意されています。キャラクターデザインや設定も非常に細かく、プレイヤーはキャラクターたちに強い愛着を抱くことでしょう。また、著名な声優陣が声を担当しており、キャラクターたちに命を吹き込んでいます。これにより、キャラクターたちがより生き生きと感じられ、物語に一層のリアリティと感情移入をもたらします。
例えば、ケアルの声を担当した井上和彦や、クレアの声を担当した江森浩子といった実力派声優が、キャラクターに深みを与えています。また、脇役のキャラクターにも魅力的な声優が起用されており、全体として非常に豪華なキャスティングが実現しています。
重厚な音楽とグラフィック

シリーズを通して、音楽やグラフィックにも力が入れられています。特に音楽は、ゲームの雰囲気を盛り上げる重要な要素であり、プレイヤーの心に深く響くメロディが多数用意されています。作曲家の桜庭統や田村信二、初芝弘也といった才能あるアーティストが手掛ける音楽は、感動的なシーンや緊迫した戦闘シーンを一層引き立てます。
グラフィック面でも、当時の技術を駆使して美麗に描かれた背景やキャラクターが、ケルト神話の世界観を見事に再現しています。特に「天使の詩 白き翼の祈り」では、スーパーファミコンの限界を超えた美しいグラフィックが話題となりました。
多彩なゲームプレイとシステム

各作品ごとに異なるゲームプレイやシステムが採用されており、プレイヤーを飽きさせません。例えば、「天使の詩 白き翼の祈り」では、言語によるモンスターとの交渉や、自動レベルアップといった新しい要素が取り入れられています。これにより、シリーズ全体としての統一感を保ちながらも、各作品ごとに新しい体験が提供されます。
また、各キャラクターの特殊能力や魔法、アイテムの収集といった要素が、戦略的なゲームプレイを求められることが多く、プレイヤーはただ単に敵を倒すだけでなく、どうやって戦うかを考える楽しさがあります。これにより、プレイヤーは自分のプレイスタイルに合わせた戦略を練ることができ、ゲームへの没入感が一層高まります。
シリーズの一覧
天使の詩


1991年10月25日にPCエンジンSUPER CD-ROM²用として登場しました。企画・音楽に小川史生、シナリオに西健一・金子彰史・芝田哲朗、美術に冨士宏らが名を連ね、キャラクターデザインは冨士宏が担当しています。後年、プロジェクトEGGでの配信(Windows版、2016年6月21日)を経て、Nintendo Switch版は2025年2月20日に配信されています。主人公ケアルとヒロインのクレアには井上和彦と江森浩子を起用し、要所のボイスシーンが物語を押し上げます。世界観はケルト神話を土台に据え、魔法を使える人間の暴走が“悪魔”の誕生へと転じた遠い昔、英雄と魔王の戦いが伝説となった後の時代が舞台です。

冒頭、ロスコモン村の若者ケアルは恋人クレアと結婚のためにコーク城へ向かいますが、道中で魔物カイムに襲われクレアが連れ去られてしまいます。救出の旅で、ケアルは高名な魔術師ブゼン、名剣士ジト、ケルトの秘奥に通じる少女エンヤと出会い、共にバンゴアの塔を攻略してクレアを取り戻します。やがてクレアが天上界の王女であり、地底界から迫る闇の勢力に対処する使命を負っていることが明らかになります。四つのハイクロスを解放して天上界に至った一行は、女王マリアから“地上は人間のもの”という摂理と、クレアのみがルキフェル封印を成せる宿命を聞かされます。

終盤、荒ぶるロッホランの海にある闇の神殿で地底界の魔王ルキフェルと激突。肉体を失って逃れようとするその魂を前に、クレアはケアルへの口づけを最後に地底界へ身を投じ、封印を果たして世界を救います。直後にマリアが彼女を救い上げ天へ連れ帰ると、ケアルは慟哭しながらも闇と戦い続ける決意を秘めて荒野を歩き出します。

人物像も鮮烈です。ケアルは奪われた恋人を追う過程で剣士として成長し、後の続編にも影響を与えます。クレアは実は捨て子として育てられた天上界の王女で、使命を選び取る存在として描かれます。ブゼンは偏屈ながら理を見抜く賢者で、旅の随所で道を開きます。ジトは妻サラを探す剣豪で、仲間を庇って散る悲劇が物語の重みを増します。エンヤは古い伝承と妖精・神々の知識を携え、一行を天上界へ導く鍵となります。宿敵ルキフェルは地上と天上を見下す悪魔王で、敗走時に魂を分離して再起を目論みます。エンディング後には、特別な操作で始まるボイスドラマ「番外編」も用意され、もしも平穏なら――というセルフパロディ的な後日談が展開します。
天使の詩II 堕天使の選択


1993年3月26日にPCエンジンSUPER CD-ROM²で発売。ディレクター・シナリオは金子彰史、キャラクターデザインは結城信輝が担当し、音楽はなるけみちこ・小川史生のタッグ。Windows配信(2016年12月13日)を経て、こちらもSwitch版が2025年2月20日に展開されています。舞台は前作から100年後にあたる“別次元の地上界”。終盤で前作世界に跨る展開をみせ、ふたつの世界が物語的に接続されます。プレイヤーの選択でイベントの順番や結果が変化する「フレキシブル・イベントシステム」を搭載し、得られる報酬も分岐します。入手情報は会話形式の「メモ」に蓄積され、謎解きのヒントになります。

物語はアーウィンの青年フェイトが、封獄の塔で記憶を失った少女リアーナを見つける場面から動き出します。街は魔物に襲われ、フェイトは相棒のシオンと別れ、リアーナの記憶を探す旅に出ます。やがて“ダーク教団”が異教徒狩りや超古代技術の方舟「アグネア」建造などに関わることが判明。砂漠の民ジーア、盗賊ランゾー、魔導師デューイ、レジスタンスのファンらと行動する中、フェイトは試練を越え“全てを引き裂く闇の剣”こと魔剣ルシエドを得ます。宿敵メロウズとの決戦でいったん敗北を味わい、強さを希求するフェイトは、デーモン・ゲートの開放という大事件に巻き込まれます。黒幕ラミアムはサタンの力を身に降ろして世界支配を企て、国王ラグナカングをも改造の末に操ります。

やがて明かされる真実――リアーナは天使で、ルキフェル細胞の浄化と“人間が存在に値するか”の最終審判を委ねられた存在でした。兄ラファエルは人間を見限り、滅ぼす選択を迫りますが、旅で知った人の強さと美しさを前に、リアーナは“地上を人間に任せ、自らは人間になる”という「堕天使の選択」を下します。ここで物語は前作世界へ橋渡しされ、100年前の英雄ケアルが不老不死の呪いを断つべく最後のルキフェル細胞に挑む展開と重なります。ジトの曾孫アレフ、ペンザンスの少女ティアラも加わり、ケアルの支援で増殖を止められたバラヴァを討ち、ケアルはようやくクレアの待つ天へ昇ります。最終局面、ラミアムはサタンと融合して立ちはだかりますが、シオンがルシエドで止めを刺し、命を賭して終焉へ導きます。戦いの後、フェイトはリアーナに共に生きる未来を告げ、ふたりはエウリカの花を摘みに歩き出します――100年前、ケアルとクレアがそうしたように。

登場人物は重層的です。フェイトは“世界のため”ではなく“彼女と一緒にいたいから”戦う一貫した動機を持ち、リアーナは審判を留保しながら人間の価値を見つめ直します。シオンは敬虔さゆえの過ちと贖いを体現し、ジーアは許嫁ラミアムの真実と対峙し続けます。ランゾーは軽口の裏で渋い働きを重ね、ファンはレジスタンスの要として最後まで仲間を逃がすために身を投じます。メロウズは“赤鬼”と恐れられる剣士で、実はフェイトの父という重い真実を背負い、最後に道を示して去ります。敵側では、四魔将(サタナキア、サルガタナス、アスタロート)が暗躍し、ラミアムの野心を利用してサタン復活へ導きます。神側のラファエルは冷徹な監察官としてふるまい、前作のエンヤやクレアは時を越えて物語に関わります。さらに、PCE実機で特定操作を行うと、独立したシューティング「ダークレフト」が起動する遊び心も仕込まれました。
天使の詩 白き翼の祈り


シリーズ完結編は1994年7月29日にスーパーファミコンで発売されました。開発陣は前作までの中心スタッフが退社した後の体制で、キャラクターデザインも一新。音楽は桜庭統、田村信二、初芝弘也が担当します。ハードの制約からボイスはなく、イベントは一枚絵のスチルで演出されます。戦闘は従来の完全ターン制から行動速度に応じた個別進行へ舵を切り、交渉で得るレア交換用の「黒のコイン」、チェックポイントに応じた自動レベルアップなど、駆け引き重視のシステムが組み込まれました。

Windows向け配信は2018年12月19日。Nintendo Switch移植はクラウドファンディングのストレッチゴール達成を受けて実現し、2025年9月18日に発売予定です。巻き戻しやエンカウントオフ、画面フィルター、サウンド・ビジュアルモードなど、快適性と鑑賞性を高める機能が加わります。

物語は、鍛冶屋の息子レイアードが旅芸人一座の歌姫クラーナに恋をしたことから動き出します。クラーナは領主の息子との結婚を迫られ、レイアードは仲間とともに結婚式へ乗り込み、彼女を連れ出して駆け落ちの旅へ。やがて悪魔ベリアルの影が差し、二人は広がる争いと権力の思惑に巻き込まれます。レオン・フェルエス、幼なじみで僧侶のソフィア、復讐を誓う魔法使いレヴィ、幼なじみサキ、学者肌のキース、老戦士ギルガ、レイアードの父マクロードら、多彩な人物が行く先々で関わります。旅の吟遊詩人フェレルが語る神話や伝承は、過去作の出来事――“天使の詩”“堕天使の選択”――を伝説として伝えます。天上のラファエルはここでも厳しい姿勢を崩さず、人と悪魔の争いを断つための苛烈な思考を示します。ランネルは憎悪に呑まれ、魔導師ルカーズに利用されてベリアルへと変じる悲劇を辿ります。前作までの系譜を受け継ぎつつ、主人公とヒロインの恋だけでなく、周囲の恋模様や信念も重ねて描かれ、シリーズの幕引きにふさわしい群像劇となっています。
まとめ

「天使の詩」シリーズは、王道RPGの遊び心地に“恋”と“天上・地上・地底”をめぐる神話的モチーフを織り交ぜ、フルボイス演出(第3作を除く)や昼夜の変化などでドラマ性を高めた作品群です。第1作はケルト神話の息づく世界で、天上の姫クレアが自己犠牲で封印を果たす悲恋が核となりました。第2作は100年後の別次元を舞台に、天使リアーナの“堕天使の選択”が人間への信頼を示し、前作主人公ケアルの救済までを大きな円でつなぎます。第3作はシステムの刷新で駆け引きを強め、伝説となった過去作の物語を踏まえながら、新たな恋と戦いを描いて完結します。復刻・移植によって現在の環境でも触れやすくなった今、シリーズを通して味わうと、恋と宿命、そして“人間に世界を委ねる”という思想が一貫して流れていることがわかります。物語の余韻と楽曲の記憶、そして時を越えて交わる人と天使の想い――それらが“リリカルRPG”の名にふさわしい体験を形づくっているのです。
天使の詩シリーズの一覧
