SNKが生み出した「風雲」シリーズは、素手の格闘術に“武器”を組み合わせた独自のバトルスタイルと、2ライン制の立体的な駆け引きで存在感を放つ作品群です。舞台は21世紀前半の近未来・ジパングシティー。『餓狼伝説』や『龍虎の拳』『サムライスピリッツ』の流れを踏まえつつも、差別化を徹底した設計が魅力になっています。ここでは、シリーズ2作を順にたどり、システム、物語、キャラクター、移植状況まで、詳しく紹介します。
シリーズの概要

「風雲」シリーズは、SNKが1995年から展開した個性的な格闘ゲームで、武器と素手の格闘技を融合させた独自のスタイルを特徴としています。第1作『風雲黙示録 〜格闘創世〜』では、21世紀初頭の近未来都市ジパングシティーを舞台に、謎の主催者獅子王が開いた「獣神武闘会」で多彩な戦士たちが戦います。環境ギミックを活かした2ラインバトルやキャラクターごとの濃厚な背景設定が魅力で、ストーリー性と戦略性を兼ね備えていました。続編『風雲スーパータッグバトル』では交代制タッグバトルを導入し、戦略性をさらに高めるとともに新キャラクターや組織の陰謀が加わり、世界観が拡張されました。SNKの他シリーズともつながりを持ち、独自色とクロスオーバー要素を両立。現在は多機種への移植により幅広い層が楽しめる、隠れた名作格闘シリーズとして再評価されています。
シリーズの魅力
素手と武器を融合させた独自のバトルスタイル

「風雲」シリーズの最大の特徴は、素手の格闘技と武器を組み合わせた戦闘スタイルにあります。従来の格闘ゲームでは、剣道や槍術といった純粋な武術使いが多いのに対し、本シリーズでは格闘技を基盤としたうえでブーメランやトンファー、ボールなど多彩な武器を加える独自のスタイルを構築しました。主人公ショー・疾風は空手にブーメランを融合させた“風雲拳”を継承し、他のキャラクターもそれぞれのバックボーンと武器を掛け合わせた技を披露します。これによりプレイヤーは単純な武器格闘にとどまらず、素手の技と道具を組み合わせる新しい駆け引きを体験できました。
ステージとギミックを活かした2ラインバトル

バトルシステムは『餓狼伝説』の流れを汲む2ライン制ですが、本シリーズではステージごとに大きな特徴を持たせています。奥ラインが途切れていたり、パイプにぶら下がって戦えたり、遊園地ではジェットコースターが通過してダメージを与えたりと、舞台そのものが戦闘に影響を及ぼします。キャラクターの背景と結びついたギミックも魅力で、プロレスラーのステージでは吊り棒を利用したアクションが可能になり、少年天才ニコラのステージでは床が開閉して落下を誘発します。環境そのものを駆使して立ち回る設計は、他の格闘ゲームにはない臨場感を生み出しています。
濃厚なキャラクター設定と多様な動機

登場キャラクターは単なる賞金稼ぎではなく、それぞれが複雑な背景や動機を抱えて参戦します。父の編み出した武術を試すためのショー・疾風、消息を絶った兄の真相を追うマックス・イーグル、婚約を破棄するために戦うキャロル、病気の娘を救うために優勝を目指すゴードン、かつての因縁を抱えた老拳士・中白虎、そして盗賊やテロリスト、謎めいた主催者獅子王など、動機は人間的でありながらドラマ性に富んでいます。続編ではさらに発展し、恋人ができたマックスや、反政府集団に育てられたロサ、組織の首領に挑む牛頭と馬頭など、それぞれの物語が深まっていきます。キャラクターごとの背景がプレイヤーの想像をかき立て、ただの戦闘以上の物語性を感じさせます。
進化したゲームシステムとタッグバトルの戦略性

『風雲黙示録』では環境ギミックを活かした1対1の戦いが中心でしたが、『風雲スーパータッグバトル』では交代制のタッグシステムが導入されました。交代は画面中央付近でしか行えず、交代後は体力が回復し始めるというルールにより、戦略性が格段に増しました。劣勢のときに交代を成功させるか、優勢時に相手を交代させない立ち回りを選ぶかが勝敗を分けます。さらに一部のアーケード基板では4人用サブボードが登場し、1キャラクターごとに1人のプレイヤーが操作する4人同時のタッグバトルが可能になりました。このシステムは他の格闘ゲームではほとんど見られない試みで、チーム戦の新たな魅力を提示しました。
他シリーズとのつながりと移植による継承

「風雲」シリーズは『餓狼伝説』と世界観がつながっており、続編にはキム・カッファンの子孫が登場するなど、SNK作品同士のクロスオーバーが魅力を増しています。さらに“脱衣KO”の伝統を引き継ぎつつ、男女逆転の演出を行うなど、既存シリーズの要素をアレンジして独自色を強めています。移植面では、ネオジオROMやCDを経て、近年は「アケアカNEOGEO」によりPlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switch、Windows 10、iOS、Androidで気軽に楽しめるようになりました。これにより、かつてのアーケードユーザーだけでなく新世代のプレイヤーもアクセス可能になり、独特の世界観とシステムが今なお継承されています。
シリーズの一覧
風雲黙示録 格闘創世

1995年4月25日、アーケード用ネオジオ基板(MVS)で稼働開始したシリーズ第1作です。欧米版は『SAVAGE REIGN』の名で展開され、タイトル画面には欧米版独自の字体で「風雲」の大きな文字が重ねられています。開発は『キング・オブ・ザ・モンスターズ2』などを手掛けたチームが2年を費やして行われ、当時隆盛を極めた対戦格闘ブームの中で、自社他作との差別化として“素手×武器”の融合スタイルを採用しました。世界観づくりにおいては映画『ブレードランナー』的な雑多な近未来の空気感を狙ったと語られており、ネオンに濡れる都市、工業的な足場、遊園地など、異質な要素が同居する舞台美術も印象的です。

バトルは『餓狼伝説』譲りの2ライン制が基本ですが、奥ラインが途中で切れていたり、パイプにぶら下がって戦う区画があったり、稼働中のジェットコースターのレール上が戦場になったりと、フィールドの仕掛けが多彩です。キャラクター間の距離に応じた拡大・縮小演出は『龍虎の拳』『サムライスピリッツ』の流れを汲み、さらに“脱衣KO”の要素も取り入れられています。ただし本作では服が破れる対象が男性キャラクター側という点が特徴です。ゲームプレイ上の核は、各ファイターが武器を使いつつも根幹に素手の格闘技を持つことにあり、例えば主人公のショー・疾風(ハヤテ)は「空手+ブーメラン」を組み合わせた“風雲拳”を受け継ぎます。剣道や槍術の使い手がそのまま出るのではなく、あくまで素手の型に武器を重ねる設計がシリーズの個性になっています。

物語は、謎の男・獅子王が主催する「獣神武闘会」から始まります。優勝者には富と最強の称号が与えられるとされ、100人を超える猛者が世界中からジパングシティーへ集結。参加者は金や名声だけを追うのではなく、それぞれ複雑な動機や因縁を抱えてリングに立ちます。登場キャラクターは、10人の通常選択キャラに中ボスの獅子王、そして最終ボスの“真・獅子王”という構成です。ショー・疾風は父が編み出した実戦空手にブーメランを融合した風雲拳の継承者で、己の流派の強さを証明するため参戦します。無敗の人気プロレスラー、マックス・イーグルは少年時代に消息を絶った兄と獅子王の姿の類似に気づき、真相を確かめるべく大会に乗り込みます。合気道と新体操ボールを合わせた“ジムナスアーツ”のキャロル・スタンザックは、親が勝手に承諾した獅子王との婚約を破棄するため、本人を倒す決意でリングへ。娘の治療費を懸ける重量警官ゴードン・ボウマンは、強面ながら娘には頭が上がらない一面を見せ、負けポーズでは娘好みのウサギ柄パンツが露わになるというギャップが語られます。伝説の狼から贈られた帽子を大切にする老拳士・中白虎は、杖から炎弾を放つ不思議な力を使い、帽子を飛ばされると激怒する癖を持ちます。自作の強化スーツで身体能力を跳ね上げる天才児ニコラ・ザザは、双子の兄パコラの存在がエンディングでほのめかされます。大道芸の道具を武器化する残忍な盗賊ジョーカー、炎と水氷の忍術を操る兄弟の牛頭と馬頭、そしてボクシングの動きに長剣を重ねる獅子王と、顔ぶれは多種多様です。最終的に真・獅子王が金色の甲冑で姿を現し、その正体がマックスの兄・アックス・イーグルである事実が明かされますが、なぜ現在の姿になったのかは語られません。機械やドーピングで人工的に鍛え上げられた肉体を武器に、影武者の獅子王を凌駕する技群で立ちはだかります。

ステージギミックはキャラクターの素性と結びついており、プロレスラーのマックスは天井棒につかまって戦えるギミックを持ち、キャロルの遊園地ステージでは奥ラインのコースターが一定間隔で突っ込み、接触でダメージが入ります。中白虎の街角ステージは屋根に飛び乗れ、上部パイプにぶら下がっての攻防も発生。ニコラのステージは奥ライン中央の床が開閉し、落下すると手前に戻されるなど、2ライン制と環境演出が噛み合った設計です。シリーズは『餓狼伝説』ともつながりがあり、続編にはキム・カッファンの子孫が登場します。

家庭用展開としては、ネオジオROMでアーケード同等の内容が遊べ(家庭用向けのクレジット上限や難易度設定の違いあり)、ネオジオCD版はアレンジBGMと引き換えに読み込みが長めです。その後の配信ではWiiバーチャルコンソールや「アケアカNEOGEO」によって、PlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switch、Windows 10、iOS、Android向けにMVS版が配信され、Nintendo Switch用パッケージ『アケアカNEOGEO セレクション Vol.1』にも収録されています(レーティングはCERO:B)。
ゲームソフト
プレイステーション2版


ネオジオ版

ネオジオCD版

風雲スーパータッグバトル

翌年の1996年9月26日にMVSで稼働開始した続編で、同年11月8日に家庭用ネオジオへ移植されました。英語版タイトルは『Kizuna Encounter SUPER TAG BATTLE』。第1作の1対1から一転して、本作は「1チーム2人・交代制」のタッグバトルに舵を切ります。世界観のトーンも、どこか呑気さのあった前作と比べ、退廃した近未来のハードボイルド色が強まり、渋みのある演出で統一されています。

交代は画面中央付近の限られたエリアでのみ可能で、交代成功後は控えに回ったキャラクターの体力が回復を始めます。さらに、チームの片方1人が倒れた時点で勝敗が決するルールのため、ただ相手の体力を削るだけでなく、交代エリアの位置取りをめぐる押し引きが勝ち筋を左右します。アーケードでは一部MVS専用の4人用サブボードに対応した“スペシャルバージョン”が存在し、1キャラクターにつき1人のプレイヤーが担当して最大4人同時に交代制の対戦が可能です(画面に同時出現するわけではありません)。タイトル画面に「SPECIAL VERSION 4人でタッグプレイOK!」と表示されるかどうかで判別でき、ロゴの動きにも通常版との差異があります。家庭用移植作ではこの専用ハードの仕様は再現されていませんが、ゲーム上の交代に合わせて実際のプレイヤーが交代することで擬似的に遊ぶことはできます。シリーズ伝統の“脱衣KO”は続投し、今作ではロサにも適用され、条件次第で通常より激しい破れ方を見せます(タイム残り10以下、かつロサのパートナー体力が4分の1以下の状況でロサを倒すなどの条件)。

キャラクター面では、新顔のロサと金秀一(キム・スイル)が参戦します。ロサは出生も本名も不明で、移民たちの反政府的な集団に拾われて育った女性剣士です。シリーズの中で唯一、素手+武器の合体ではなく、純然たる剣術をスタイルとし、必殺技名はフランス語とラテン語が入り混じります。これは彼女を導いた歴代の組織首領の国籍がさまざまで、多様な剣術を継ぎ合わせたためと説明されています。金秀一は「テコンドー+棒術」というハイブリッドで、キム・カッファンの子孫に当たる存在です。逆転技“鳳凰脚”など、名称や性能に親系譜の面影があり、考古学を志すも現場監督と衝突して蹴り飛ばして辞め、現在は飲み屋の用心棒を務めるという経歴や、下戸でオレンジジュースを好む設定も描かれています。

前作からの続投組も各々の物語を進めます。ショー・疾風はさらに磨いた風雲拳を試すため再出場し、マックス・イーグルには資産家令嬢の恋人ができたという後日談が加わります。牛頭と馬頭は弟・鹿頭の仇として真・獅子王の抹殺を狙いますが、真の黒幕が自らの組織「邪呀」の首領・邪頭である事実に直面し、組織との関係を断ち切る流れが生まれます(馬頭は地位向上を狙う野心も抱え、最終的には組織に追われる身となり、逆に皆殺しを息巻くという危うさを抱えます)。影・獅子王は通常キャラに昇格し、髪やグローブが青系に変更。ゴードンは元気になった娘の頼みでマイホーム資金を稼ぐために参加し、中白虎は前回のギックリ腰の雪辱と、真・獅子王への古い借りを返すために再起します。ジョーカーは「マジカル・ヒポポ」の勢力回復を狙って組織乗っ取りを計画。ボス勢は構成が変わり、真・獅子王が中ボスとして立ちはだかり、最終ボスは闇組織「邪呀」を率いる邪頭です。邪頭は普段カラスに化け、戦闘時に本性を現し、牛頭・馬頭と共通の技を強化版として扱うほか、独自の必殺も操ります。後年『ザ・キング・オブ・ファイターズ XI』では隠し・乱入キャラクターとして客演します。

移植と配信の履歴は少し複雑です。長らくネオジオ以外の家庭用機に移植されませんでしたが、2007年6月21日にPlayStation 2用『風雲 SUPER COMBO』へ前作と同梱収録され、その後「アケアカNEOGEO」作品として2019年1月10日にPlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switchで、同年10月11日にWindows 10で、2023年8月24日にiOS/Androidで順次配信が始まりました。さらに2025年11月6日発売予定のNintendo Switch用パッケージ『アケアカNEOGEO セレクション Vol.8』にも、アケアカ版と同等内容で収録されます。レーティングはいずれもCERO:Bです。
ゲームソフト
プレイステーション2版


ネオジオ版

まとめ

「風雲」シリーズは、SNKが1995年から展開した独自色の強い格闘ゲームで、素手と武器を融合させた戦闘スタイルと近未来的な舞台設定が特徴です。第1作『風雲黙示録』は環境ギミックを活用した2ラインバトルを採用し、謎の大会「獣神武闘会」を軸に多彩なキャラクターの人間ドラマを描きました。続編『風雲スーパータッグバトル』では交代制タッグシステムを導入し、4人同時プレイや新キャラクターの参戦で戦略性と物語をさらに深化させています。物語は獅子王や邪呀といった強大な敵を中心に展開し、個性的なキャラクターの動機や関係性が世界観に厚みを加えました。また「餓狼伝説」シリーズとつながる要素もあり、SNK作品群の中でも独自の位置を占めています。現在では家庭用や現行機、スマートフォン向けに移植され、往年のファンだけでなく新世代にも触れられる環境が整っています。その革新的なシステムと濃厚なドラマ性から、今なお異彩を放つ格闘ゲームシリーズとして再評価されています。
風雲シリーズの一覧
