1995年に日本のゲームメーカー、グラムスから誕生した「QUOVADIS(クォヴァディス)」シリーズは、セガサターン用の戦略シミュレーションゲームとしてデビューしました。その後、PlayStationにもリメイク移植され、続編も登場。このシリーズは、銀河系における人類の運命を描いた独自のストーリーと洗練されたゲームプレイで、多くのファンを魅了してきました。このページではそんな「クォヴァディス」シリーズについて紹介していきます。
シリーズの概要

『クォヴァディス』シリーズは、グラムスが手がけたSF戦略シミュレーションゲームで、1995年のセガサターン版『QUOVADIS』を皮切りに展開されました。銀河規模の戦争を背景に、士官大学生たちの成長と葛藤、戦火に巻き込まれる運命を描いた重厚なストーリーと、アドベンチャーパートと戦術パートを融合させた独自のゲームシステムが特徴です。続編『クォヴァディス2 惑星強襲オヴァン・レイ』では舞台を別の星系に移し、陰謀と復讐に翻弄される元士官の物語が展開。アニメーション演出、濃密なキャラクター描写、リアルなSF設定が高く評価され、今なお根強いファンを持つ作品群となっています。
シリーズの魅力
圧倒的な世界観と緻密なストーリーテリング

クォヴァディスシリーズの最大の魅力のひとつが、その壮大で緻密な世界観にあります。第1作『クォヴァディス』は、銀河系を舞台に、多国間の力関係、同盟、反乱、そして戦争といったリアルで複雑な政治状況を背景に物語が展開します。物語は、100年間の平和の後に勃発した新たな戦乱を中心に、士官大学の学生たちが次第に現実の戦場に引きずり込まれていく様子を描きます。学生から将軍へ、士官候補から英雄へと成長していく主人公ハル・バランシンの物語は、まるで一大宇宙叙事詩のような重厚さを持っており、プレイヤーは彼の目を通して、平和と戦争の本質、国家と個人の葛藤を体験していきます。
続編である『クォヴァディス2』では舞台をセテウア銀河に移し、新たな戦争と陰謀の物語が展開されます。大統領暗殺未遂事件に巻き込まれ、無実の罪で追われる身となったオヴァン・レイの生き様は、スリリングで悲劇的な展開を含み、前作とは異なるドラマ性を提供しています。背景にある軍産複合体、民族対立、兵器技術の進化なども細かく描かれており、単なる正義と悪の二元論では語れない複雑な物語構造がシリーズ全体に深みを与えています。前作のキャラクターが続編にゲスト的に登場することで、シリーズの時間軸が繋がっていることも暗示されており、ファンには嬉しい仕掛けも随所に散りばめられています。
魅力的で多層的なキャラクター描写

本シリーズに登場するキャラクターたちは、ただの記号的な存在ではなく、それぞれに信念、過去、葛藤を持った生身の人間として描かれています。主人公のハルは正義感の強い青年でありながら、仲間たちとの友情や戦争による喪失を経て、次第に指導者として成長していく姿が丹念に描かれています。マリア・シンダーは当初敵軍の士官でありながら、信念と人間関係を選んで亡命し、ハルの副官として活躍することで、ただのヒロインではない強さと自立性を体現しています。
敵側にも魅力的な人物が数多く存在し、たとえばイリナ・ミュラーは、元はハルの親友でありながら敵国の将軍として戦場に立ち、最終的には自らの信念に従い反乱を起こして再びハルの側に戻るという波乱の人生を辿ります。登場人物の多くは単純な善悪で区別されず、立場の違いや国家の事情により敵味方に分かれながらも、それぞれの正義を持っています。この描き方は、特に『銀河英雄伝説』のような重厚な群像劇に近く、プレイヤーは誰かひとりを英雄視することなく、それぞれの視点で戦争の意味を考えさせられるようになります。
『クォヴァディス2』でも、オヴァン・レイをはじめとして、復讐に燃えるドナー、感情の起伏が激しいシド、神経質だが才能あるネリーなど、一人ひとりが立体的に描かれており、それぞれが物語を牽引していく存在となっています。彼らの背景や過去の因縁もストーリー中に丁寧に描かれるため、ゲームを進めるごとにプレイヤーはキャラクターたちに強く感情移入していきます。
戦略性の高い奥深いゲームシステム

『クォヴァディス』シリーズが高い評価を受ける理由のひとつに、戦略性に富んだゲームシステムの存在があります。初代『クォヴァディス』では、斜め見下ろし型の戦術マップを採用し、2Dでありながら前後左右の概念を取り入れ、攻撃方向や艦の向きによって被ダメージや攻撃力に影響が出るという、リアルな艦隊戦が表現されています。艦隊は最大8隻で構成され、各艦に士官を割り当てることで成長や陣形の開発が進みます。
特筆すべきは陣形システムで、初期の横陣やI字陣形から、ゲーム進行に応じて鶴翼、方矢、矩形といった様々な陣形を獲得でき、それぞれの陣形が移動力や攻撃範囲、命中率などに補正を与えることで、戦術の幅が大きく広がります。また、ビーム兵器とミサイル兵器という2種類の攻撃方法には明確な違いが設けられており、無限に使用できるが射程が短いビーム、弾数制限がある代わりに射程が広く威力が高いミサイルという選択は、補給艦の保護や攻撃タイミングの工夫といった戦術を強く意識させるものとなっています。
『クォヴァディス2』ではリアルタイムストラテジーへと進化し、視界やレーダー範囲といった概念が導入されたことで、一気に戦術の自由度が増しました。森や建物などの地形を利用したステルス戦術、煙幕による視界封鎖、スナイパー機による間接支援攻撃など、プレイヤーの判断と配置が勝敗を大きく左右します。操作対象のユニットもフェロンやモータルなど、それぞれに特化した役割を持つため、単純な数の多さでは勝てない奥深さがあります。
アニメーションと演出による圧倒的な没入感

アニメ演出の完成度は、このシリーズにおいて他に類を見ない没入体験を提供しています。『クォヴァディス』では、ゲーム中のイベントシーンにボイス付きのアニメパートが豊富に導入されており、ただのテキスト表示では表現しきれないキャラクターの感情や、戦場の緊迫感が視覚的・聴覚的に伝わってきます。アニメ制作には『マクロスシリーズ』に関わったスタッフも多数参加しており、作画のクオリティは家庭用ゲーム機としては当時として非常に高い水準でした。
続編の『クォヴァディス2』ではさらに演出面が強化され、板野一郎をはじめとする一流のアニメーターによって制作された戦闘アニメーションやイベントシーンは、映画作品さながらの迫力を持ち、プレイヤーに強烈な印象を与えました。ゲームとアニメが連動する形で感情の起伏を作り出す演出手法は、現在のメディアミックスの先駆けとも言えるもので、単なるゲームを超えて一つの物語世界として成立しています。
また、エンディングテーマや挿入歌も世界観と絶妙にマッチしており、特に『クォヴァディス』の「ARK〜未来を探して〜」、『クォヴァディス2』の「そっと夜に泣こう」は、それぞれの物語の余韻を切なく、美しく彩る重要な要素となっています。
絶妙なメカデザインとリアルなSF設定

本シリーズがSFファンに評価されるもう一つの理由が、優れたメカニックデザインと、緻密に設計された宇宙および惑星戦争の設定です。『クォヴァディス』に登場する艦船は、単なる兵器としてではなく、それぞれの国家の技術力や戦術思想を反映した個性的なデザインとなっており、たとえばブルト・コッホの艦は重装甲・高火力でまさに力による支配を象徴し、ザーディッシュの艦は技術的洗練とバランスを重視しています。特定条件でのみ配備されるカスタムシップは、通常艦とは一線を画す性能と設定を持ち、コレクション的な楽しみもあります。
『クォヴァディス2』では、リアルロボット志向の「アサルト・アーマー」が主役となり、そのデザインには頭部に顔の意匠が無いなど、一風変わった造形が取り入れられています。これはリアリズムと個性の両立を狙った結果であり、他のロボットゲームとの差別化に成功しています。また、機体ごとに異なる特性(射撃、格闘、索敵、装甲など)が明確に分かれており、ミリタリーテイストを重視した設定が非常に説得力を持ってプレイヤーに伝わってきます。
また、宇宙航行技術やレーダー技術、戦術的な通信傍受など、設定の随所にハードSF的要素が盛り込まれており、軍事シミュレーションとしての深みを増しています。惑星ごとの気候や地形が戦術に直結する点も非常にリアルで、ゲームプレイに大きな影響を与えます。戦争が兵器や技術によっていかに左右されるかを、ゲームシステムと世界観の両面から実感できることが、シリーズのリアリティを支えています。
シリーズの説明
ストーリー

遥かな未来の舞台
物語は遥かな未来の銀河系で繰り広げられます。長らく続いた戦乱を終結させた平和条約から100年が経ち、平和を守るべく設立された平和艦隊「イブコーア」の士官大学が物語の舞台となります。
反乱の謀略
平和を祝う日、一部の国が反乱を企て、士官大学生たちはその渦に巻き込まれ戦いに身を投じます。プレイヤーは主人公ハルとなり、基地や大学内を移動しながら仲間たちとの対話を通じてストーリーを進め、艦隊を指揮して敵との戦いに挑むことになります。
ゲームシステム

ユニークな二層構造
「クォヴァディス」のゲームシステムは独特の二層構造を持っています。一方では主人公ハルが移動し、仲間たちとの交流を通じて物語を進めるアドベンチャーパート。もう一方では艦隊を操作し、敵との戦略的な戦いを繰り広げるシミュレーションパート。これにより、物語と戦略が絶妙に組み合わさり、プレイヤーを引き込んでいます。
戦略的な厚み
戦闘は複数の宇宙艦を一つの艦隊として扱い、旗艦が沈むとその艦隊は全滅となります。補給艦が生きている限りは艦隊内の艦は毎ターン耐久値が回復し、戦略的な位置取りが求められます。戦術マップは斜め上から見下ろし、正方形のエリア内を小さな正方形のマスで区切り、艦隊の移動と敵艦隊との交戦が展開されます。
艦隊の編成とカスタムシップ
最大8隻の宇宙艦を指揮し、戦局を有利に進めるための艦隊編成とカスタムシップの取得が「クォヴァディス」シリーズにおいて重要な要素となっています。
艦種と陣形の戦略
8つの異なる艦種が存在し、それぞれが独自の特徴を持っています。ビーム兵器やミサイル兵器を駆使し、敵艦隊との熾烈な戦いを繰り広げます。陣形も8つあり、それぞれが戦術的な優位性を提供します。これらの要素を巧みに組み合わせ、戦局を有利に進めることが求められます。
カスタムシップの取得
プレイヤーが手に入れることができるカスタムシップは、特定の指定マップでの攻略結果によって決まります。撃沈艦がない状態で規定ターン数をクリアするとAランクで最高性能の戦艦「アレイオン」が手に入ります。これにより、プレイヤーのプレイスタイルや戦略に合わせて戦力を強化できるようになっています。
開発の背景と評価

背景とインスピレーション
「クォヴァディス」シリーズは、グラムスが初めて手がけた家庭用ゲーム機向け作品です。吉田直人プロデューサーは、ハヤカワ文庫のSF小説やボードゲームに触れる中で得た影響を取り入れ、ゲームの要素は『機動戦士ガンダム』や『銀河英雄伝説』からのインスピレーションを受けています。このような背景から、シリーズは独自性と深い物語性を有しています。
未完の三部作
本作は三部構成の予定でしたが、残念ながらグラムスの倒産により三作目は実現されませんでした。それでも、初代とそのリメイク版、続編を通してプレイヤーに提供された独自の体験は、ゲーム史において特別な存在となりました。
評価
「クォヴァディス」は評価が分かれる一方で、独自の魅力があります。ゲーム誌『ファミ通』の評価ではセガサターン版が19点(40点満点)と低めでしたが、PlayStation版は22点と標準的な評価を得ました。読者投票による評価は、セガサターン版がやや高評価を得ています。
シリーズの一覧
クォヴァディス

1995年にグラムスからセガサターン用として発売された『QUOVADIS』は、ただの戦略シミュレーションゲームにはとどまらず、壮大な銀河史を背景に、若き士官候補生たちの戦いと成長を描く濃密なアニメ・ドラマ的作品でもありました。100年間にわたる銀河の平和が突如として破られ、平和の象徴として設立された多国籍艦隊「イブコーア」に所属する士官大学生たちは、否応なしに戦火の渦に巻き込まれていきます。
物語の主人公であるハル・バランシンは、ザーディッシュという経済・技術に優れた国家出身の士官候補生で、士官学校では優秀な成績を収めながらも、トップではなく「三番手」として登場します。しかし、彼の戦術眼と指導力は戦役を通して開花し、物語の終盤では平和艦隊の元帥にまで上り詰めます。周囲には魅力的なキャラクターが多数存在し、ツァルスクレブト出身のマリア・シンダーはハルの副官として、物語を通じて彼と強い絆を築いていきます。彼女はトゥルーエンドでハルと婚約し、運命的なパートナーとして描かれます。
本作の最大の特徴は、アニメーションとゲームプレイの融合です。要所に挿入されるボイス付きアニメパートは、物語の緊張感とキャラクターの感情を豊かに描き、プレイヤーの没入感を高めます。ビジュアル面では『マクロスシリーズ』で名を馳せた美樹本晴彦がキャラクターデザインを担当し、音楽は『シュトラール』の土師一雄が手掛け、作品に荘厳な雰囲気を加味しています。

ゲームシステムは、アドベンチャー形式のストーリーパートと、斜め見下ろし視点による戦術シミュレーションパートを交互に進める形になっており、プレイヤーは艦隊の指揮官として、最大8隻からなる艦隊を率いて戦います。艦船の種類も豊富で、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、砲艦、ミサイル艦、光子艦、補給艦などが存在し、それぞれに明確な役割と特徴があります。例えば、空母はビーム兵器の代わりに戦闘機を搭載しており、広範囲の攻撃が可能です。
艦隊には陣形の概念もあり、状況に応じて「横列」や「方矢」など様々な陣形を選択することで、攻撃範囲や回避性能に違いが出ます。また、プレイヤーの選択と成績に応じて、主人公専用のカスタム艦が支給されるというシステムも存在します。たとえば、特定の条件を全て満たした場合には、最強のカスタム戦艦「アレイオン」が手に入りますが、条件を一つでも逃すと「シュベール」や「ジェスタ」といった別の艦が割り当てられます。
敵艦隊も多種多様で、各国家ごとに特色があります。ブルト・コッホの艦は耐久力と火力が極めて高く、実質的なラスボス艦「ブリッヘル」はまさに要塞のような存在。一方で、ザーディッシュの戦艦「デーニッツ」や「カニンガム」なども高速戦艦や重装型として個性的な性能を誇ります。
1997年にはPlayStationにてリメイク版『QUOVADIS イベルカーツ戦役』がリリースされ、システムにいくつかの調整が加えられたほか、ゲームバランスも再設計されました。たとえば戦闘画面は六角形のマスを用いた見下ろし型へと変更され、敵の能力が強化されることで難易度は上昇しましたが、プレイヤーの戦略性も求められる本格的なシミュレーションとなりました。
ゲームソフト
セガサターン版

プレイステーション版

クォヴァディス2 惑星強襲オヴァン・レイ

続編『クォヴァディス2 惑星強襲オヴァン・レイ』は、前作とは異なる銀河、セテウア系を舞台とし、物語も全くの新展開を見せます。1997年に再びグラムスからセガサターンで発売され、リアルタイムストラテジーの要素を取り入れた新たな挑戦作となりました。
主人公は、G.O.A.軍のエリート士官だったオヴァン・レイ。彼は婚約者ヒルダや親友ディオンと共に、大統領警護任務に従事していたところを、突如として発生した襲撃事件に巻き込まれ、逆に国家反逆者として追われる身となってしまいます。逃亡の末、彼は敵である八惑星連合の傭兵部隊「赤い蠍」に加わり、過去の陰謀と真実を暴くため戦場へと赴いていきます。
ゲームの主軸となる戦闘は、リアルタイムで進行するロボット兵器「アサルト・アーマー」を操るもので、視線や遮蔽物による索敵の有無、間接射撃、煙幕戦術など、戦術要素は極めて多彩です。操作ユニットには格闘戦向きの「フェロン」、バランス型の「モータル」、狙撃型の「スナイパー」、重火力重装甲の「ホーボー」などがあり、それぞれの特性を活かして戦術を組み立てていく必要があります。

登場人物も個性的で、オヴァンを中心とした赤い蠍の隊員たちは、それぞれに過去と想いを抱えながら戦っています。例えば、復讐心に燃える姉御肌のドナー・アナガリスや、神経質だが索敵能力に秀でたネリー・カテナなど、戦闘のみならずドラマパートにおいても魅力が溢れる人物たちが多数登場します。さらには、前作の主人公ハル・バランシンもエンディングで特別出演し、シリーズとしての繋がりを感じさせる演出も盛り込まれています。
また、メカニック面ではアサルト・アーマーのデザインにもこだわりが光っており、顔の無いロボットという斬新な設計が施されました。これは、リアリティと個性を重視した結果として生まれたスタイルであり、従来のロボットゲームとは一線を画す重厚な演出を実現しています。
音楽やアニメーションパートも高評価を得ており、特にエンディングテーマ「そっと夜に泣こう」(歌:笠原弘子)は、物語の余韻を美しく締めくくる一曲として、多くのプレイヤーに印象を残しました。
ゲームソフト
セガサターン版

まとめ

『クォヴァディス』シリーズは、壮大な宇宙戦争を背景に、多国籍の若き士官たちの運命を描いた、極めて完成度の高い戦略シミュレーションゲームです。前作では国際関係やイデオロギーの対立、そして友情と裏切りが交錯する重厚な物語が描かれ、続編ではそれを一新したリアルタイム戦略と陰謀劇が展開されました。どちらの作品も、プレイヤーに深い感情移入を促す脚本と演出、戦略性に富んだゲーム性、魅力的な登場人物とメカニックによって、唯一無二のゲーム体験を提供しています。
残念ながら3作目はグラムスの倒産により実現しませんでしたが、今なお語り継がれる名作として多くのファンに愛され続けています。戦略とドラマの融合を極めたこのシリーズは、リアルな戦場の緊張感と、人間ドラマの機微を見事に表現した、数少ないゲーム作品のひとつと言えるでしょう。
クォヴァディスシリーズの一覧
