【緋王伝シリーズ】魔と人が織りなすダークファンタジーSRPG

ゲームシリーズ
© 1994 ウルフチーム All Rights Reserved.

本記事では、ウルフチームが手がけたダークファンタジーSRPG『緋王伝』シリーズの魅力を徹底解説しています。半自動戦闘による独自の戦略性、重厚な物語、そして人と魔の葛藤を描く深いテーマを中心に、各作品の特徴と進化を詳しく紹介します。

シリーズの概要

シリーズの概要
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『緋王伝』シリーズは、ウルフチームが手がけたダークファンタジー系シミュレーションRPGで、独自の戦略性と重厚な物語が融合した作品群です。滅亡した王国の王子リチャードが魔物の力を借りて復讐と再興を目指す第1作を皮切りに、牢獄からの脱出を描く『緋王伝2』、その改良版『緋王伝2’ダッシュHD』へと続きます。最大の特徴は、半自動で進行する戦闘とチーム単位の戦略操作にあり、地形効果や行動方針の設定、魔物の育成など、深い思考を求められるゲームデザインが際立ちます。物語は「人間と魔の共存」「力と正義の代償」といったテーマを軸に展開し、陰鬱ながらも叙情的な世界観を形成しています。桜庭統らによる音楽が重厚さを増し、操作の難しさや理不尽ささえも作品の緊張感を支える要素となっています。システムの実験性と物語の深さが調和した、90年代SRPGを代表する異色の名作シリーズです。

シリーズの魅力

戦略性と緊張感が共存する独自の戦闘システム

戦略性と緊張感が共存する独自の戦闘システム
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『緋王伝』シリーズ最大の特徴は、プレイヤーの指示と自動行動が絶妙に組み合わされた戦闘システムにあります。敵に接触すると自動的に戦闘が始まる半自動制でありながら、事前に「魔法を使うか」「どの方針で戦うか」といった行動方針を設定することで、プレイヤーは軍全体の戦略を組み立てることができます。手動操作では回復やアイテム使用が必要になり、特に戦闘のタイミングを見極める判断力が問われます。この設計によって、完全リアルタイムのRTSとは異なる緊迫感が生まれ、少しの判断の遅れや配置ミスが敗北に直結することも珍しくありません。また、戦闘マップには回復や防御力上昇などの効果を持つ特殊マスが存在し、地形を意識した戦略が勝敗を分ける要素として機能しています。さらに、チーム単位で行動させるシステムは一見シンプルに見えて、戦線の維持や隊列の管理に頭を悩ませる要因となり、緻密な戦略立案の醍醐味を強調しています。

ダークファンタジーとしての物語構成と道徳的葛藤

ダークファンタジーとしての物語構成と道徳的葛藤
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シリーズ全体に流れるストーリーの根底には「人間と魔の共存」という重いテーマがあり、主人公たちは常に「正義とは何か」「復讐は許されるのか」という葛藤に直面します。第一作の王子リチャードは、祖国を裏切られ滅ぼされる悲劇の中で、魔物の力を借りて人間を討つという道を選びます。ここには単なる勧善懲悪の物語ではなく、人間の弱さや権力への執着、そして異形の存在への理解という複雑な倫理観が交錯しています。彼が戦い抜いた末に「緋王」と呼ばれ、民に畏怖され、やがて歴史から抹消されてしまう結末は、英雄譚の裏に潜む虚しさと悲しみを見事に描き出しています。続編『緋王伝2』や『緋王伝2’ダッシュHD』でも、この「人と魔」の関係性が異なる形で描かれ、牢獄からの脱出という閉鎖的な状況下で、自由や救済を求めるキャラクターたちの小さな願いが丁寧に積み重ねられています。シリーズを通じて、プレイヤーは戦いの勝敗だけでなく、その裏にある人間の感情と倫理を見つめ直すことになります。

詰将棋のような思考性と高難易度設計

詰将棋のような思考性と高難易度設計
© 1993 ウルフチーム All Rights Reserved.

『緋王伝』シリーズのプレイ感は「詰将棋」や「パズル」に近いと評されることが多く、一手一手の判断が積み重なってクリアに直結します。敵の配置、罠の位置、鍵の使用順序、キャラの育成配分など、あらゆる要素が密接に絡み合い、正解の手順を見つけるまでに試行錯誤を強いられます。特に『緋王伝2』以降は、扉の開閉スイッチや効果床、飛行による移動ルートの選択など、初見殺しとも言える複雑な仕掛けが多く、プレイヤーの記憶力と推理力が試されます。一部のマップでは、4チームすべてを均等に育てていなければ進行が詰む設計になっており、育成リソースの分配や戦術的撤退の判断が重要です。このような緻密な構造は理不尽さとは異なり、「正解を探す快感」を提供する絶妙な難易度として機能しています。また、2周目プレイで引き継がれる要素によって再挑戦の動機が生まれ、プレイヤーは自らの戦略を検証・洗練する過程を楽しむことができます。

制約の中で際立つ個性豊かなユニットと育成の奥深さ

制約の中で際立つ個性豊かなユニットと育成の奥深さ
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シリーズでは数多くの魔物や人間ユニットが登場し、それぞれに得手不得手が存在します。ミノタウロスのように高い耐久力と攻撃力を持つ安定型、ゾンビのように器用さはあるが扱いづらいタイプ、そしてウィッチやエンジェルのように強力な魔法を操るが打たれ弱い支援型など、役割の棲み分けが明確です。魔法の使用優先度やMPの管理、回復タイミングなど、各ユニットの特性を理解して運用することが勝利の鍵となります。加えて、マップ上で拾える装備品やアイテムは多彩で、装備可能な種族の限られた中でどのユニットに何を与えるかという選択も重要な戦略要素です。『緋王伝2』ではチーム単位で経験値が入る仕組みのため、戦闘への参加順や敵の撃破役を調整することで効率的な育成が可能になり、戦略性にさらなる層を加えています。『緋王伝2’ダッシュHD』では手動回復の導入により、育成した回復役の重要性が増し、部隊編成の自由度が格段に向上しました。シリーズを通して、限られたリソースの中で最適な成長を導き出す楽しみが深く掘り下げられています。

重厚な音楽と演出が生む没入感

重厚な音楽と演出が生む没入感
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『緋王伝』シリーズは、単なる戦略シミュレーションにとどまらず、その世界観を音楽と演出で強く印象づけています。作曲を手がけたのは桜庭統、初芝弘也、田村信二といったウルフチームの代表的作曲陣で、緊迫感ある戦闘曲から哀愁漂うバラードまで、重厚な旋律が物語の陰影を際立たせています。特にPC-98版ではFM音源の硬質な響きがダークな雰囲気と見事に融合し、プレイヤーに忘れがたい印象を残しました。グラフィック面では、当時としては高水準のドット絵とウィンドウシステムが組み合わさり、閉塞感のあるダンジョンや荒廃した城の空気を巧みに表現しています。物語中の演出も、淡々と進む戦闘の合間に挿入される短いカットシーンやテキストで構成されており、過剰な説明を避けながらも登場人物の心情を伝える巧みな演出が光ります。結果として、プレイヤーはゲームの中に「世界が確かに存在する」と感じられる深い没入感を味わえるのです。

シリーズの一覧

緋王伝

緋王伝
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緋王伝 魔物達との誓い|スーパーファミコン (SFC)|ウルフチーム|レトロゲームから最新ゲームまで検索できるゲームカタログのピコピコ大百科
ウルフチームより1994年2月11日にスーパーファミコン用ソフトとして発売されたシミュレーションゲーム。パソコンからの移植作。大臣の裏切りにより国を滅ぼされた王子がモンスターを操り復讐するというダークファンタジー。4人構成の部隊に指示を出…
駿河屋 -緋王伝[5インチ版](PC-9801)
■商品内容物・ゲームディスク(3枚)・マニュアル・システムノート

ウルフチーム制作、1992年6月26日発売のシリーズ第1作です(Windows版なし、評価はシナリオ・グラフィック・システム・総合いずれも6、長所はシステム、短所は操作性、種類D)。PC-98で登場し、1994年にはスーパーファミコンへ移植されました。SFC版はマウスと通常コントローラの両方に対応し、PC版の陰影ある雰囲気に比べてデフォルメ寄りの表現になっています。

ゲームは全18ステージのステージクリア型SRPGで、最大63体の魔物を6体ずつのチームに編成し、複数チームを並行して操ります。敵と接触すると半自動で攻撃が進み、戦術方針や魔法使用の有無を事前に設定しておく仕組みです。回復魔法やアイテムの使用はプレイヤーが都度操作し、マップ上の一部マスには回復や防御上昇などの効果があるため、どこで戦うかの位置取りが重要になります。宝箱やフィールド上に出現する魔物の拾得、隠し通路やスイッチで壁が消えるギミックなど、詰将棋やローグライクに近い「最適解」を探る手触りが特徴です。レベルアップと装備で強化はできるものの、特定のユニットだけを鍛えて無双するほどのインフレには至らず、死んだままステージを終えるとその魔物は失われるため、育成とリスク管理の両立が求められます。

緋王伝
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物語はステージ間の短いイベントで描かれます。祖国を滅ぼされ城を追われた王子リチャード・A・マッキンタイア(“緋王”)が、城の空中庭園で出会った精霊ベアトリクスの導きにより魔物を使役する力を得て、奪われた居城を取り戻す戦いに挑みます。魔物は封印を解いてくれた主人公に恩義を抱いて協力しており、人間を斬る選択を迫られるダークな味わいがありつつ、無闇に悪事を働く印象は抑えられています。作中では裏切り者マクシミリアンの思惑(騎馬民族に対抗できる「強い王」を求めたという皮肉)や、伝説の「王者の剣」と対になる「覇者の剣」の存在が明らかになります。終盤、隣国王マコーレィがラスボスとして立ちはだかり、人型からドラゴン、さらに魔剣に支配された悪魔形態へと変貌します。長期戦になりやすいため回復アイテムの温存が鍵です。決着後、マコーレィは剣の支配から解かれるものの命尽き、覇者の剣の封印や民の安寧を託して息絶えます。エンディングでは、魔物の力で外敵を退け「緋王」と称えられながらも畏れられ、死後は再び戦乱が訪れ、後世には「魔に魅入られた王」として歴史から葬り去られるという余韻の強い結末が語られます。

緋王伝
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操作面では独特のマルチウィンドウUIが採用され、最背面に大マップ、その手前に縮小マップ、各種ウィンドウを右上に小さく重ねるのが基本運用です。低解像度ゆえ慣れるまで操作しづらく、チーム追従機能は便利な反面、行き止まりからの引き返しで味方同士が詰まって動けなくなる場面もあります。SFC版はステージクリア型のリアルタイム進行で、ユニット数が増えると画面が混雑しやすく、マウス操作のほうが扱いやすい印象です。なおクリア後はレベルやアイテムを引き継いだ2周目が始まり(セーブに星印が付く)、難度上昇や一部の変化が用意されています。ユニットの所感としては、ミノタウロス系の安定感、ゾンビ系の器用貧乏さ、魔法系の運用難(優先度設定やMP管理が重要)が挙げられます。中盤以降に難度が上がり、終盤は手強いマップが続くものの、ステージ18で全ユニット復活イベントがあるため、アイテムの運用を見据えた温存が有効です。

緋王伝2

緋王伝2
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駿河屋 -緋王伝2(PC-9801)

1993年11月16日発売の続編です(Windows版なし、シナリオ6/グラフィック6/システム7/総合7、長所はシステム、短所は画面の狭さ、種類D)。舞台は牢獄。そこから少女を救い出すため、同じく囚われていた主人公が魔物を召喚・勧誘しつつ戦う物語で、ダークで物悲しいトーンながらテキスト量は控えめです。ゲームはステージ制で、要所でストーリーが進行します。

緋王伝2
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システム面はパズル色が強まり、1チーム4人・最大4チームでダンジョンの仕掛けを解き進みます。鍵付き扉、押しボタンで壁が消える機構、回復・ダメージ・通路閉鎖などの効果床が配置され、初見での一発クリアは難しい構成です。仲間はマップ配置の魔物の確保、敵死体のアンデッド化、召喚魔法での追加など多様で、マップ上の固有魔物は各種1体ずつという制約があります。撃破時の経験値はチーム単位で配分され、レベル差が大きいと一気に伸びることもあります。装備品やアイテムは入手機会が多い反面、多くの魔物は装備不可で、育成の重点化には限界があります。4チームすべてを一定水準まで成長させないと突破できないマップが存在し、誤った育成方針だと詰み得る厳しさです。男女主人公のどちらかが戦死するとゲームオーバーという条件も緊張感を高めます。前作より1チーム当たりの人数とチーム数が減ったことで操作性は向上しましたが、マルチウィンドウの切り替えや道具整理で頻繁に画面を広げる必要があり、扱いはやや煩雑です。

緋王伝2
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攻略面では、透明化での回避、無敵ユニットによる通せんぼ、飛行で穴越え、釣り出しからの各個撃破、状態異常・死亡耐性での安定化など、多様な解法が用意されています。強化が進めば無双も可能ですが、囲まれや回復役の脱落で崩れることも多く、行動方針に「退却」がないため混戦時に味方が密集して動けなくなるストレスもあります。おすすめの育成候補としては主人公2人、スケルトン、サムライ、ウィッチ、エンジェル、ヒーリングを扱えるキャラ、初期から装備可能なユニット、終盤マップで加入する有力キャラ、ヴァルキリアなどが挙げられています。作中の選択では「精霊のネックレス」を精霊へ返すと有用な魔法(アイスコフィン)の恩恵があり、返さずにMP半減の効果を得ても使いどころは限られます。商人に渡す選択はメリットが薄く推奨されません。全21ステージの構成で難所が多く、詰将棋的な手応えがシリーズでも際立っています。前作主人公が回想で登場しますが、前作未プレイでも大筋の理解に支障はありません。

緋王伝2′ ダッシュHD

緋王伝2' ダッシュHD
© 1994 ウルフチーム All Rights Reserved.
駿河屋 -緋王伝II’ HD[3.5インチ版](PC-9801)
■商品内容物・データディスク(4枚)・プレイングマニュアル・インストールマニュアル

1994年7月29日発売のマイナーチェンジ版で、第2作と物語は同一ながら、マップが全面的に作り替えられ、一部システムが改良されています(Windows版なし、シナリオ6/グラフィック6/システム7/総合7、長所はシステム、短所は「ストーリーが同じ」、種類D)。最大の変更点は、回復魔法を手動で実行できるようになったことです。これにより戦線の維持が容易になり、理不尽な事故死が減りました。基本の遊びは前作踏襲で、牢獄から少女を救い出すために4人×最大4チームで仕掛けを突破していきます。

緋王伝2' ダッシュHD
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成長面では、主人公と同じレベルまで一気に引き上げるアイテムが4チーム分手に入るため、精鋭集中育成が現実的になりました。相変わらず男女主人公の戦死は即ゲームオーバーですが、最終面は前作より簡易化され、総力戦でなく1チームのみでの攻略も可能です。序盤3面前後では、仲間枠を4チーム×4人で埋めて加入処理を活用し、魔界に鍵を持ち越して宝箱を回収しやすくするテクニックが有効です。4チーム構成で開始すると、4チーム目が離れた地点に初期配置され、そちらで宝箱を回収できる場面もあります。以降は鍵が余ることがあるため、持ち越しの必要性は薄まります。新しい仕掛けも随所に加えられ、作者の言によれば前作が「ダンジョンマスター」的な密度、本作は「メトロイド」的な探索感に近い手触りを目指しています。裏技的な要素として、「ゲームを最初から始める」を選び、マップが表示されるまでCTRL+右クリックを押しっぱなしにすると、魔界に全魔物がアイテムを携えて待機している状態で始められます。育成が進めば強力な突破が可能ですが、囲まれたり回復役が落ちたりすると崩れやすく、行動方針に退避がないため密集による立ち往生は引き続き注意点です。

まとめ

まとめ
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『緋王伝』は、半自動戦闘と多チーム運用、位置効果マスやスイッチ類のギミックを組み合わせ、詰将棋のように解法を探る設計が核になっています。第1作は暗い物語と独特のUIが印象的で、移植版では表現がややライトになりつつも、戦術と資源管理の緊張感は健在です。第2作ではパズル性と難度が一段と高まり、育成配分とチーム運用がクリア可否を左右します。『2’ ダッシュHD』は手動回復の導入や成長アイテムの整備で遊びやすさが増し、同じ物語を別マップ・別手触りで味わえる構成になりました。いずれも「最適な一手」を積み重ねる思考性が強く、強ユニットに頼り切りでは通用しない設計が魅力です。重厚な世界観とシビアなゲーム性を兼ね備えたダークファンタジーSRPGとして、シリーズ全体が独自の存在感を放っています。

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