本記事では、ピーター・モリニューが生み出した『フェイブル(Fable)』シリーズの壮大な物語と、緻密なゲームシステムの奥深さを作品ごとに紐解きながら、なぜこのシリーズが多くのプレイヤーを魅了し続けているのかを詳しく解説していきます。それぞれの作品を物語やシステムの進化、プレイヤーの選択によって変化する世界観に至るまで、多角的に紹介します。
シリーズの概要

『フェイブル(Fable)』シリーズは、マイクロソフトとLionhead Studiosが手がけたファンタジーRPGで、選択の自由と行動の影響が物語や世界に反映される点が大きな特徴です。プレイヤーは善行を重ねる英雄にも、悪行に手を染める極悪人にもなれ、その選択が容姿やNPCの態度、街の発展など多岐に影響します。初代では復讐と成長の物語が描かれ、続編『II』では産業革命前夜のアルビオンを舞台にさらなる自由度を実現。『III』では革命を起こし国王として国を治める責務を負います。濃密な世界設定と自由なロールプレイが魅力のシリーズです。
シリーズの魅力
善悪の境界を超えた「自由な選択」

フェイブルシリーズ最大の魅力は、何を正義とし、何を悪とするか、すべてをプレイヤー自身の価値観に委ねる圧倒的な自由度にあります。たとえば一見平和な村でも、助けを求める住人に手を差し伸べて救いの英雄として生きることもできれば、盗みや暴力に手を染め、住民に恐れられる極悪人として恐怖を植えつけることもできます。しかもこうした行動は物語の一部に留まらず、主人公の容姿や表情、さらに周囲の人々の態度や発言まで変えていく仕組みです。善行を積み重ねると穏やかで清廉な風貌に変化し、逆に悪事を繰り返せば角が生え、顔に陰鬱な影が落ちるようになります。世界全体がその選択の積み重ねを反映し、同じ物語を歩んでいるはずなのに、他のプレイヤーと全く異なる結末にたどり着く。行動一つひとつが主人公の運命とアルビオンという世界に刻まれ、その選択のすべてが「自分の物語」になっていく。この「選択の自由」と「行動の影響力」が、フェイブルシリーズに独特のリアリティを与えています。
多層的で生きた世界「アルビオン」

フェイブルの物語が展開するアルビオンは、単なる背景ではなく、まるで息づいているかのように緻密に作りこまれた世界です。シリーズを通じて何百年も時間が流れ、かつて英雄たちが駆け抜けた伝承の地が風化し、変貌していく歴史的な積み重ねも体験できます。前作で訪れた村が廃墟となっていたり、逆にかつての未開の荒野が産業革命を迎え、活気あふれる都市へと発展していたりと、時代の変遷を実感できるのが魅力です。さらに、アルビオンの住民は全員に「名前」「性格」「趣味」「好み」「嫌いなもの」といった詳細な設定が用意されていて、それぞれが自分の生活を営んでいます。街のパブでは酔っぱらった客がくだを巻き、夜には店を閉めて家に帰る商人もいれば、朝になると市場で商売を始める人々もいる。プレイヤーはただ観察するだけでなく、会話やアクションを通して住民の生活に介入し、その態度や運命をも変えることができるのです。街や村だけでなく、森、湖、沼地、遺跡といったエリアも多彩に用意されていて、どこへ行くにもそれぞれ固有の歴史や物語が息づいています。この「生きた世界」を探索する楽しさは、シリーズ全体を通して揺るがない魅力です。
自分だけの「成長」と「見た目の変化」

フェイブルシリーズでは、レベルアップやスキル習得による成長が単なる数値の強化にとどまらず、主人公の外見や体格にまでリアルに反映される点が他のRPGとは一線を画しています。たとえば接近戦を極めて筋力を鍛え上げると、体が分厚く逞しくなり、戦士らしい風格が漂います。魔法の修行を重ねると、全身に青白い魔紋が浮かび上がり、神秘的で少し不気味な印象を与えるようになります。さらに食生活や行動も体型や健康に影響し、暴飲暴食を続ければ太り、粗野な行動を繰り返すと顔つきも荒々しく変わるのです。こうした見た目の変化はNPCの態度や感情に影響を与えるため、ゲーム内での人間関係にも直結します。装備や刺青、髪型、ヒゲ、服装を自分好みに整えるカスタマイズ要素も豊富で、他のプレイヤーとはまったく違う「自分だけの英雄」を作り上げられます。このビジュアルと成長の一体感は、物語への没入感を何倍にも高めてくれます。
日常と冒険が融合する「生活シミュレーション」

フェイブルはRPGでありながら、生活シミュレーションの側面も非常に充実しています。冒険の合間に家を買って内装を整えたり、商売をしたり、NPCと恋愛を重ねて結婚し、子供を育てるといった暮らしを楽しめるのです。恋愛の過程も奥深く、口説きやプレゼント、感情表現を駆使して相手との距離を縮めていきます。結婚後は生活費の支払いも必要で、育児や家庭内の機嫌にも気を配らねばなりません。重婚も可能ですが、秘密が露見すれば修羅場に発展します。ペットとして寄り添う犬は、宝探しや戦闘補助だけでなく、日々の絆を育む大切な存在で、旅の心強い相棒になります。さらに、街での経済活動も重要です。不動産を購入し、家賃収入を得ることができる一方、犯罪に手を染めれば罰金や指名手配といったリスクが伴います。こうした日常の営みが「英雄としての大冒険」と地続きで存在し、生活の延長線上に世界の命運を賭けた選択が待ち受ける感覚は、他に類を見ない魅力です。
濃密に編まれた「キャラクターと物語」

シリーズを彩るキャラクターたちは、単なる脇役に留まらず、主人公の生き方や信念を深く照らし出す存在です。初代で主人公を救い導く英雄ギルドのメイズ、気さくで屈強なライバルのウィスパー、妖艶で恐ろしいレディーグレイ。『II』では盲目の預言者テレサが再び現れ、主人公に宿命を告げる一方で、仲間として加わるハマーやガース、リーバーらそれぞれに複雑な思惑や背景がありました。リーバーなどは何十年を生き延び、『III』にもそのままの姿で登場し、英雄の物語と絡み合う長い因縁を感じさせます。
物語自体もシリーズを重ねるごとに壮大になり、初代の「家族を奪われた復讐譚」から、『II』の「姉の死を超えて運命に立ち向かう物語」、そして『III』では「革命を起こし、王となり国を治める責務」へと展開します。その過程で善悪を選ぶだけでなく、親しい者を犠牲にするか、国家を犠牲にするか、どちらも失うかを選ばされる重い決断も多く、プレイヤー自身の価値観を突きつけてきます。キャラクターたちは単なる役割を演じる存在ではなく、プレイヤーの決断によって命運を変える生きた人物として描かれており、その濃密な関係性と結末の多様性が何度もプレイしたくなる理由の一つです。
シリーズの一覧
フェイブル(Fable)


『フェイブル(Fable)』は2005年に日本語版が登場したXbox用ファンタジーRPGで、単なる冒険譚にとどまらず、プレイヤーの行動や選択が世界と自分自身の姿を変えていく極めて自由度の高い作品でした。舞台となるアルビオンの地は、かつて英雄たちが伝説を築いた場所で、主人公はオークベール村で平穏な幼少期を過ごしていましたが、突如として村が謎の山賊に襲われてすべてを失います。家族が引き裂かれ、絶体絶命に陥った少年を救ったのが、英雄ギルドの指導者である熟練の魔術師メイズでした。彼に保護され、英雄ギルドで修行を積んでいく過程で、主人公は剣術、弓術、魔法を習得し、己の力で未来を切り開く力を得ていきます。

本作の特徴の一つは、善悪の概念が曖昧な中でプレイヤーがいかなる人物として生きるかを選べる点にありました。人々を助けて英雄として讃えられるか、悪事を重ねて恐れられる存在になるかは、全てプレイヤーの行動次第です。例えば、通りすがりの人に酒を振る舞って友好的に接することも、スリを働いて軽蔑を買うことも自由に選べました。さらには街の住人に求婚して結婚することができ、複数の伴侶を持つことも可能でした。細かい感情表現や行動のバリエーションは、当時としては非常に革新的で、周囲の反応や噂話が現実のように変化していく様子は強い没入感を生み出しました。
また『Fable: The Lost Chapters』という拡張版では、魔法や武器、防具の種類が増え、未公開だったエリアや新たなシナリオが加わるなど、より一層の進化を遂げています。グラフィックが向上し、キャラクターカスタマイズも大幅に充実しました。主人公は筋力を鍛えるとたくましく変貌し、逆に魔法を極めれば神秘的な紋章が浮かび上がるなど、成長の過程で外見まで変化します。

物語を彩る個性豊かな登場人物たちも忘れがたい存在です。主人公の宿敵とも言えるレディーグレイは、美しさと冷酷さを併せ持つ市長で、主人公の選択次第でその運命が大きく変わります。仲間でありライバルであるウィスパーとの友情と対立も、物語に深みを与える要素でした。英雄ギルドの長老ギルドマスターは、常に主人公を遠くから見守り、戦うべき相手や進むべき道を指し示してくれます。このように、すべての登場人物に固有の背景と動機が用意されており、どの選択を取るかで関係性が変わる点が作品全体の醍醐味でした。
フェイブル2(Fable II)


『フェイブル2(Fable II)』は2008年にXbox 360用として発売され、前作から数百年が経過したアルビオンを新たな舞台にしています。英雄ギルドの栄光は遠い過去のものとなり、今や銃が普及し、人々の暮らしも大きく変化しました。それでも前作で馴染み深い伝承や地名が随所に残っており、続編としての一体感を感じさせます。

物語は、貧しい少年少女が魔法のオルゴールを手に入れるところから始まります。主人公は幼い姉ローズと共に寒さと飢えに耐えながらも希望を失わず暮らしていました。しかし、願いを叶えるはずのオルゴールは運命を大きく狂わせ、二人はフェアファックス城の城主ルシアン卿の陰謀に巻き込まれます。ルシアンは古代の力を手に入れようと画策し、その邪魔となる主人公とローズを魔方陣に閉じ込め、姉を無慈悲に撃ち殺します。主人公も命を奪われかけますが、盲目の預言者テレサの手により救われました。10年の歳月を経て成長した主人公は、姉の仇を討ちルシアンの野望を阻むため再び立ち上がります。
『フェイブル II』は自由度がさらに飛躍し、街の住人との関わりは一層濃密になりました。剣や弓に加え銃を使った戦闘が導入され、近距離と遠距離、魔法を組み合わせた多彩なバトルが楽しめます。犬というパートナーも新たに加わり、探索や戦闘を共にする存在として活躍します。犬には「戦闘」「宝探し」「芸」のスキルがあり、特定の本を読ませて成長させることもできます。宝の場所を吠えて知らせたり、戦いで敵を牽制したりする忠実な相棒は、旅を支える心強い存在です。

また、感情ゲージがNPCの評価を細やかに表現するシステムも特徴的でした。「好き・嫌い」「怖い・面白い」「不細工・素敵」といった感情の尺度があり、プレイヤーの行動や装い、態度によって刻々と変化します。親指を立てるだけで好意を持たれる一方、無礼な仕草を繰り返すと軽蔑され、衛兵に追われることもあります。結婚や家庭の要素も発展し、パートナーとの関係や子供の誕生、生活費の設定といった家庭運営まで含まれていました。重婚も可能ですが、発覚すればトラブルに発展するリアルさも備わっています。
魔法の種類も大幅に増え、電撃や炎、時間操作、亡霊召喚といった多彩なウィルの力が用意され、成長に応じて全身に青白い紋章が浮かび上がる演出も神秘的でした。フィールドは時間の経過で昼夜が移ろい、都市や村の活気も刻々と変化します。バウワーストーン市場の賑わいやウェストクリフの荒廃、ノットホール島の雪景色など、それぞれの土地が持つ雰囲気もシリーズの世界観を奥深いものにしていました。
フェイブル3(Fable III)


『フェイブル3(Fable III)』は、ライオンヘッドスタジオが手掛け、2010年に日本で発売されたRPGで、フェイブルシリーズの第三作目にあたります。物語は前作から50年後、産業革命を迎えたアルビオン王国を舞台に展開します。かつてアルビオンを一つにまとめあげた英雄が亡くなった後、統治はその子供たちに引き継がれました。主人公はこの英雄の次男または次女として、王宮で何不自由ない日々を送っていましたが、兄王の圧政が民衆を苦しめていることを目の当たりにし、運命の選択を迫られることになります。

物語は二部構成で、第1部では兄王の恐怖政治に抗うため革命を起こす決意をする主人公の成長と苦悩が描かれます。城を脱出する場面では、恋人と民衆のどちらを処刑するかという選択を王から強いられ、深い後悔と怒りが主人公を突き動かす原動力となります。革命の過程では、各地で仲間を集め、民衆の支持を獲得するための様々な試練を経ることになります。前王の残した「ギルドの証」を手に取った主人公は、謎の導き手テレサから「この革命はアルビオンを守るために必要だ」と告げられます。王国全土を巻き込んだ激しい戦いの末、主人公は兄を玉座から引きずり下ろすことに成功し、自らが新たな統治者として戴冠するに至ります。

第2部は革命の勝利後の統治が主題となります。即位後最初の裁判で、兄王は「自らの行いは迫り来る闇の脅威から人々を守るためであった」と主張します。主人公は兄を処刑するか赦すかを決めなければなりません。この判断が後の王国運営や民衆の信頼に影響を及ぼすことになります。戴冠から間もなく、再び現れたテレサによって闇の侵食が既に始まっていることが明かされます。残された時間はわずか365日しかなく、平穏を守るために国の財政をどう運用するか、善政を貫くか、冷酷な政策で資金を集めるか、様々な決断が求められます。最終的に、プレイヤーの選択がアルビオンの運命を決定づけることになります。
フェイブル ザ・ジャーニー(Fable: The Journey)


『フェイブル ザ・ジャーニー(Fable: The Journey)』は2012年に発売されたシリーズのスピンオフ作品です。本作はXbox 360専用タイトルで、Kinectを用いた独自の操作体験を特徴としています。物語は『フェイブル3』の50年後、アルビオンが深刻な危機に瀕している時代を描きます。主人公は放浪の民「ドウェラー」の青年ガブリエルで、彼は仲間たちと共に夏のキャンプへ向かう道中に災厄に巻き込まれてしまいます。

旅の途中で激しい嵐に遭遇し、孤立したガブリエルは、盲目の予言者テレサと運命的に出会います。テレサは「コラプター」と呼ばれる邪悪な存在に傷を負わされており、その脅威がアルビオンを滅ぼす可能性があることを告げます。ガブリエルの愛馬セレンもその影響で弱り果ててしまい、彼はセレンを癒すため、かつて古代王国に仕えた「啓蒙者たち」の神殿を目指すことになります。
本作の特徴的な要素として、馬の手綱をKinectで操作して旅を進めるシステムがあります。道中ではさまざまな魔法を身振りで発動させることで敵と戦い、経験値を蓄積しながら強化していきます。戦闘の一方で、セレンを撫でて世話をしたり、怪我を癒したりするシーンが挿入され、旅の相棒との絆を深めることが重要なテーマになっています。

旅を進める中で、テレサはかつて自らの過ちによりコラプター復活のきっかけを作ったと告白します。百年前、彼女はスパイアを再建しようと画策し、その力で世界から悪を消そうとしましたが、その行為がかえってコラプターの復活を早めてしまったのです。ガブリエルは三つの「ウィルストーン」を探し求め、古の英雄たちの力を得て立ち向かう決意を固めます。やがて旅の終わり、テレサの最期の助力によりコラプターは滅びますが、その代償として彼女は命を落とします。ガブリエルも視力を失い、新たな預言者としての宿命を背負うことになる結末は、シリーズでも屈指の余韻を残します。
フェイブル アニバーサリー(Fable Anniversary)


『フェイブル アニバーサリー(Fable Anniversary)』は『Fable: The Lost Chapters』のリマスター作品として2013年にXbox 360で登場し、後にSteamでも配信されました。本作ではUnreal Engine 3を用いてグラフィックが全面的に刷新され、テクスチャやライティング、影、描画距離などが飛躍的に向上しています。また、実績機能や改良されたセーブシステムが新たに導入され、往年のファンだけでなく新規ユーザーにも遊びやすい仕様となっています。

ただし、グラフィックや操作性の進化が評価された一方、オリジナル版で問題となっていたバグの多くが修正されないまま残っており、フリーズや処理落ちに悩まされたプレイヤーも少なくありませんでした。批評家からの評価は概ね好意的であるものの、根本的な問題解決には至らなかったことが指摘されています。それでも、当時としてはシリーズの原点を新たなビジュアルで追体験できる貴重なタイトルであり、ファンにとって特別な作品と言えるでしょう。
まとめ

『フェイブル』シリーズは、単なるファンタジーRPGにとどまらず、プレイヤー自身の選択が物語や世界に影響を及ぼす「自由」を追求した先駆的作品群です。善悪の境界や、人々との関わり、生活の積み重ねがそのまま主人公の物語になるこのシリーズは、プレイヤーに深い没入感を与え続けました。今もなお多くのファンがその世界観に魅了されており、シリーズの系譜はゲーム史において特別な存在と言えるでしょう。今後の作品でも、自由と運命のはざまで揺れる物語を体験できることを期待したいです。
フェイブルシリーズの一覧
